関カレ最終選考 「木村考宏」

陸上競技における関東インカレに出場するためには,標準記録を突破し,大学の代表にならなければならない.

標準記録にはAとBの二種類があり,Aのほうが高い記録となる.

なお,各種目,一つの大学からは最大3名しか出場はできない.

出場できる組み合わせは以下の通り.

A A A
A A B
A A
A B
A
B

つまり,B標準記録しか突破できていない選手が何人いてもBだけは1名しか出場できない.

一方,A標準記録を突破している選手がいれば,Bも含めて最大3名まで出場できる.

さらにいうなれば,武大陸上部投擲ブロックハンマーパートのように,A標準記録を突破している者が大勢いる場合は,そのなかで選考し,3名までしか出場できない.



さて,関東インカレ最終選考会が終了.

結果はトップページからジャンプできるが,特筆すべきはやはり混成ブロック長の「木村考宏」ことキムだろう.

入学当初は全国的には,,,,というか茨城県内でも無名だったはずの選手.

お世辞にも「強い」とは言えず,下級生の時は「最終種目の1500mだけは,まあまあ強い選手かな.他は普通以下だ」という選手.



しかし武大陸上部で3年間戦ってきた男は変わる.


今のキムは立派な混成ブロック長であり,最終学年,ラストチャンスとして関東インカレ最終選考会を迎えた.



ちなみに,関東インカレ十種競技の参加標準記録は

A:6500点
B:6000点

去年,キムがこの選考会で出した記録は6129点.


すでにB標準記録を突破していた.

しかし,昨年は参加標準記録Aで東(前ブロック長)と,参加標準記録Bで小堀(ルーキー.自己ベストはキムより上だった)の二人が代表として出場した.

つまり,キムはBを突破していたが,それより強く,Aを突破していない小堀に負けて出場できなかった.

本人はどう感じていたか分からないが,小堀は1学年下だが,インターハイにも出場している選手であり,明らかにキムよりも強く,将来性も高かった.

当時の周囲は「やはり小堀か」と感じていたと思う.




そして,今年度の小堀は,,,実は4月の初戦ですでにA標準記録を突破する自己ベストを(台風のなか)叩きだしていた.

そう.つまり小堀がAを突破しているから,すでにBを突破しているキムは(ほぼ)無条件で出場できるのだ.

ほぼ無条件と書いたのは,他の選手達がB標準記録を突破し,キムよりも高い記録をだせば出場できるという可能性が「無くはない」からだ.しかし,現実的には難しい状況にあった.


そして,最終選考会.


前回,小堀がA標準記録を突破し,輝やいていたその端で,ブロック長であったキムは走り幅跳び棒高跳びにおいて痛恨の記録なしとなり,見るも無惨な状態で競技を終えていた.

おそらく,今回の最終選考会に出場する前は,本当に怖かったと思う.不安だったと思う.
棒高跳びを経験したことがあるひとにしか分からないが,4m近いポールを走って地面にぶつけて,それを曲げて自分の身体を空中へと吹っ飛ばす経験.少しのミスと無鉄砲さが大けがを呼び寄せる.
恐怖が身体を縛り始めると,とたんに「突っ込めなくなる」
突っ込めないから跳べない.跳ぶ気になれない.
おそらく,棒高跳び選手,そして十種競技者の誰しもが経験したことのある「突っ込めない病」の真っ最中にあった.
奇しくも,MNBも大学院1年生の関東インカレ前に経験した.
本当に怖い.

何よりも怖いのはケガをすることではなく,記録なしで終わってしまうこと.
それまで積み上げてきた全てが崩れ去る.
何度も夢に見て,途中で目覚めたか.




しかし時間は待ってくれはしない.


泣いても笑っても最後の選考会.

最初の100mでは無情の向かい風3.6m.どうやっても記録が狙えない状態となってしまい,最初の種目から「どうせキムはBで出られるから・・・今回は運がなかったな」とややあきらめムードになっていたかもしれない.

陸上競技の世界では,直線種目の向かい風は1mにつき,0.1秒ほど記録が悪くなるとされている.
つまり,向かい風3.6mということは,すでに100mで0.36秒のハンデを背負っていることになる.
混成競技の得点に換算すると,80点近くマイナスとなる.

そして次の種目は前回記録なしで終わった走り幅跳び.まさに暗雲立ちこめる状態.





しかし,キムは強くなった.


3本目にて見事に6m92という大ジャンプ.

100mの取りこぼしを挽回し,流れに乗せる.



その後も,風と戦いながら,無事初日を自己記録相当で終え,二日目へ.
(自己記録相当とはいえ,6500点を狙うにはマダマダ全然足りない状態.本来は自己記録を大幅に超えて二日目を迎えたかった)



二日目最初の種目110mH.

またもや向かい風1.9mに阻まれ,痛恨の16秒3



けれども,本当にキムは強くなった.


円盤では見事な33m16 

棒高跳びも自己ベストの4m30


そして圧巻は槍投げ. あわや60mに届くかという59m70台を記録し,最終種目の1500mへつなげる.
(ちなみに,槍投げの関東インカレB標準は60m.キムは槍投げでも関東インカレを伺えるレベルにまで強くなった)




1500m前の得点計算

4分43秒で,ギリギリA標準記録の6500点だ.




1500mは得意ではあるが,疲労がたまり,しかも十分なコンディションではない(1500mの練習も全くしていない)今では正直厳しい.


しかも,自分がA標準記録を突破しても,他にB標準記録を突破している選手がいないから,誰にも迷惑はかからないし,自分だって関カレには出場できる.


無理をしなくたって大丈夫.




でもキムはあきらめない.絶対.



頑張った.本当に頑張った.



応援の声が大き過ぎて,ゴール時にストップウォッチの記録を読み上げるアナウンスの声が全く聞こえない状態.


ギリギリ43秒でゴールしたかに見えたが・・・・










結果,4分43秒55   6502点!



あと0.43秒遅ければA標準には届かなかった.






男のプライドだと言えば,クサイと思われるかもしれない.

けれども,A標準を突破し,胸をはって「俺は関東インカレに勝負しにきたんだ」と言いたいじゃないか.




毎年,関東インカレは厳しい戦いになる.

1点でもいいからとる! という気持ちではなく1点でも上を目指す! という気持ち.



キムが示してくれた.


6502点の,「2点」には彼が積み上げてきた大学陸上競技人生の重みがある.



感動した.


おめでとう!