重いボール
いよいよ修士論文の提出も近づき,まさに佳境といった状況.
学生が書いた文章を校正しまくるこの時期になると,どうしても正しい日本語,きちんとした文章に頭が支配される.
おかしい日本語や文章が目につくようになる.気になる.
大学教員の仕事,そのなかで大きなウェイトを占めるのが文章の作成だろう.
論文,原稿,メール.こうしたブログもそう.
正しい文章を書くトレーニングを日々実施しているようなもの.
そんな状態で,ふと町中の看板や文章をみると,あるわあるわ,誤字脱字.おかしな文章にいいまわし.
さらに様々なスポーツ関連雑誌をみると,内容そのものにも大きな間違いがあることにも気づく.
まったくアカデミックではない.
以前,野球のバイオメカニクスを専門とする教員と「重いボール」について話をしたことがある.
そもそも,ボールの質量なんてものは一定なはずで,投球するたびに重さが変わるはずがない.
にも関わらず,雑誌などをみると平気で「重いボール」などとある.
これはゴルフも一緒か.
物理的に重いボールなど存在するはずがないとする一方,バッターからすれば確かに重いボールというものは存在するとのこと.
ゴルフにおいても,風に負けない重いボールという表現が一般的に使われている.
実際に用語として存在するのだから,現象としても存在するはず.
バッターがボールを打ち返したときに,遠くへ飛ぶということは,ボールに強いバックスピンがかかっているということ.
そして打球時にバックスピンがかかりやすいボールというのは,強いバックスピンがかかっているボールだそうだ.
つまり,回転数の多いボール(この場合はバックスピン)というものは,バッターが打ち返しても回転数が上がりやすいため,遠くに飛ぶ.
結果として,それは「軽いボール」と表現される.
そして「重いボール」とはその反対.つまり回転があまりかかっていないボール.
棒球とも表現されることがあるが,それが重いボールの正体である.
どうやらこれはゴルフの世界においても同様で,回転数が少ないボールは,打ち出された後,上方へとふけあがることなく,打ち出された方向にそのまま進んでいく.回転数が少ないためマグヌス力も小さく,風の影響をあまり受けない.
それがゴルフにおける重いボール.
という定義が,暗黙の了解として共有されているのであれば,重いボールという表現を使っても意味が通じる.
しかし,物理学に疎い人からすれば,チンプンカンプンである.
なんとなく解ったつもりになって読み進む.
一方,学術的な文章は,こうした定義から説明する必要があるため,どうしても長くなる.難しくなる.
仕方無い.
ただの印象やイメージだけで説明されている文章を読むと頭が痛くなってくる.
「下半身にグッと力をいれて重心を下げる」
身体における重心とは,身体全体に働く合力の作用点である.
決して力を入れても重心位置は変化しない.
重心を下げるためにしゃがむ.その姿勢を維持するために下半身に力を入れる.
こうした説明が省略され,イメージだけで文章を書いてしまう.
体育学分野における専門家の卵である大学院生には,こうした俗な用語,あいまいな文章に注意してほしい.
もちろん,それだけではいけないがね.