武大陸上部には練習で泣く選手がいる
武大陸上部には練習で泣く選手がいる.
練習の内容は控えるが,全ての練習が終わり,ゴールに倒れ込んだ後,あえぎながら「キツかったです〜〜〜」と涙する.
こうして言葉にすると変な感じがするが,これは練習に,自分に立ち向かう強い心が流れ出したものだと思う.
インターハイにすら出場できなかったその選手は,大学入学後の10ヶ月で飛躍的に記録を伸ばし,10月にはインターハイチャンプを破る快挙を成し遂げる.
すでに関東インカレの参加A標準記録も突破した.
厳しい練習メニューに対し,精神的に逃げずに,全力で立ち向かう強さがあるからこそ,凄まじい成長を遂げたのだろう.
さかのぼること10年.同じようにグラウンドで涙を流しながら練習をしていた選手がいた.
その選手は大学を卒業し,社会人1年目を迎えていた.
入社当初は「14時まで仕事をし,それから大学へ行って練習」という約束であったが,諸般の事情により毎日18時を過ぎるまで仕事をしていた.
いわゆる通常勤務.
そして大学まで来て練習をするため,本練習が開始できるのは早くても19時,場合によっては20時を回ることも珍しく無かった.
足りない練習時間を補うために,多くのブロックが休みとなる木曜日にも練習をしていた.
MNBと二人で重い走高跳用のマットを運び(筑波大学ではマットは常に倉庫にしまうことになっていた),練習する.
全てのブロックの練習が休みのため,グラウンドに明かりはない.個人練習で明かりをつけるのは禁止されていた.
たよりなのは隣のテニスコートの明かりだけだった.
そして練習中,不意にテニスコートの明かりが消える.
もはやバーすらまともに見えない.
よほど悔しかったのだろう.その選手は泣き崩れる.
「せっかく始めたのに,もう練習ができない」と.
それでも,暗闇のなか予定していた走り込みまでこなす.
走り終えた後,「こんなのじゃ強くなれない」とやはり涙する.
そして,その翌年.
その選手は日本選手権を制覇し,日本記録を樹立した.
競技に対して,練習に対して,真摯に,本当に真剣に人生を賭けて取り組む.
そんな姿勢があるからこそ,悔しくて涙する.嬉しくて涙する.
試合で笑うためにグラウンドで泣く.
それほどの思いをかけるだけの価値が陸上競技にはある.
どんどん泣くといい.
その分だけ君は強くなる.