仕事の心得

「椅子をもってきてくれ」という言葉がある.

これをただの言葉として,ただの命令として,指示として受け取るのは簡単だ.

どこかにある椅子を持ってくればよい.



選択肢が少ない場合も簡単だ.

目の前に,そこらへんに椅子が一個しかない.

ならば,それをすぐに持ってこれば良い.



しかし,選択肢が多い場合,もしくはそこらに椅子が見あたらない場合はどうか.

どこかから探してくるのか.

時間の無駄と判断し「椅子はありません」と答えるのか.



その場合,「なぜ椅子が必要なのか」を考える必要性が出てくる.

緊急で必要なのか.

あると便利という程度なのか.

時間がかかってもよいから,必ず必要なのか.



そしてさらに考える.「その椅子をもって何をしたいのか」

一般的には椅子とは誰かが座るためにある.

ならば,誰が座る椅子なのか.

目上の方におんぼろな椅子を勧めるのは失礼だ.

ならば作りのしっかりした椅子を準備したい.



もし,君が相手の心を言葉から瞬時に読み取ることができる能力をもっていれば,もしくは指示を出した相手とすでに有る程度親密な関係になっていれば,「椅子をもってきてくれ」という言葉から,椅子をもってきて欲しいという感情以外の情報も入手することができるだろう.言い方,雰囲気,周囲の状況.

しかしそれが分からなければ,相手に一言聞くのも良い.

「どういう椅子が必要ですか?」

「スグに必要ですか?」

もちろん,その状況に応じて質問は変化するべきだ.

「○○先生がお座りになる椅子ですよね?」

と思考の先を読んでくれると,指示を出す側も楽だ.



こういった思考の瞬発力は,普段から鍛えていないと発揮できない.

おそらく思いやりのある性格や,常に何かに飢えているような性格,もしくはせっかちな性格ならば,自然と育つ能力.

体育人ならば「椅子をもってきてくれ」と言われたら,即座にハイと行動をスタートさせる.

その過程で考えながら,質問を投げかける.

走りながら「あの椅子でいいですよね?」というのもアリだ.



もっと仕事ができる人間になりたければ,「椅子をもってきてくれ」と相手には言わせないことだ.

自分で考え,状況を判断し,「椅子がもうひとつ必要だ」という答えを導きだし,行動することだ.

判断を伴った行動.それを即座にこなすことができる体育人であってほしい.