日本選手権終了 引退する君へ

日本選手権が終了.

オリンピックイヤーということもあり,そして選考内容が極めて解りやすいこともあり,大変な盛り上がり,ドラマがあった大会でしたね.

選手の皆様,関係各位の皆様,本当にお疲れさまでした.





そして,本大会を機に第一線を退く選手の皆さんが多いのもオリンピックイヤーならではでしょう.

その中には,MNBと一緒にグラウンドで汗を流した選手達もいます.



本当に,本当にお疲れさま.そして,ありがとう.








あなたが競技を始めたキッカケは何でしたか?

「かけっこで一番だった」

「走るのが楽しかった」

「先生に砲丸投げやろうと誘われたから」

「高く,遠くに跳べるのが自慢だったから」

ひとそれぞれでしょうが,多分そこには「楽しい」という感情が同居していたのではないでしょうか.

その楽しさを追求し始める決意.陸上競技者として,アスリートとしての第一歩.



そして,いつしか純粋な,単純な楽しさや,嬉しさだけでは片付けることができなくなりましたね.

あれだけ嬉しかった応援をプレッシャーに感じるようになり

あれだけ自慢できていた他人の目をストレスに感じるようになり

あれだけ楽しかった,歩くこと,走ること,投げること,跳ぶことが,いつしか苦痛とともにあるようになりました.



自分は陸上競技が向いていないのでは? と悩んだこともありました.

自分の限界はここまでだ. とあきらめそうになったこともありました.

記録がでないのを八つ当たりし,やけくそになり,取り返しのつかない怪我に見舞われたこともありました.

でも,結局はあの「楽しさ」が忘れられずに,また一歩踏み出し,新たな喜びを知り,前に進む強さ,自分の身を守る賢さを身につけてきました.



けれども,何にでも終わりはあります.

100歳まで走り続けることは困難でしょうし,自分の理想であり続けるのも困難です.

「記録は破られるためにある」「老兵は死なず,ただ去るのみ」

かつては,周囲にそんな言葉を投げかけていたのに,いつしか感慨深さとともに噛み締めている自分がいるかもしれませんね.



いままで,ずっと前だけを見続けて,記録を更新し,勝利し,陸上競技に邁進しつづけてきた君にかけられる言葉はありません.

でも,ここで初めて,あなた自身が歩いて来た道を振り返ってみてください.



どうですか.楽しかったですか?


どうですか.目指した景色は手に入りましたか?


どうですか.一番大切なものは今も残っていますか?



そして,どうですか.

これだけの人達が,あなたを応援してくれ,あなたに元気づけられ,勇気をもらったんですよ.



スパイクを置くことを「引退」とするならば,それは今まで支えてくれた人達に感謝の気持ちをトラックに捧げ,後輩達に夢を託し,陸上競技者としての自分に一区切りを付ける儀式でしょう.



でも,あなたは変わりません.

もう,いままでのように速く走れなくても,遠くに跳べなくても,力強い投擲ができなくても,あなたの魅力は変わりないし,あなたの功績は色あせることはない.

自分の根っこは陸上競技にあったことを誇りに,堂々と,胸をはって,これまで以上に前を見据えて,次の勝負に挑んでください.



君と一緒にグラウンドで汗を流すことができたことを誇りに思います.




お疲れさま.