2010年度卒業生へ贈る言葉

2010年度卒業生へ贈る言葉

まず,まわりを見て欲しい.ここに集まることができた仲間はこれだけしかいない.まさに未曾有の大災害だ.
ある人は1000年に1度の大災害だという.
ある人は日本が選んで来た道に対する天誅だという.
ならば,我々は何をすべきか.
何を目指すべきか.


君たちは武大で何を身につけてきた?
今自分で考えてほしい.

私が思うに,君たちが身につけることができたものは2つに集約される.

1つめは「自分の意思で物事を決める能力」だ.

誰もが身につけているはずだ.

1人暮らしをし,自分で起き,自分で寝る.
取得単位を自分で決め,食事を自分で決め,恋人を自分で決め,練習内容を決めてきた.

けれども,「自分の意思で物事を決める能力を得た」と認識していない卒業生は多い.


それはなぜか.

自信をもって行動していないからだ.

自分がとっている行動に自信を持つ.
情報が氾濫している現代において,これほど難しいことはないかもしれない.

自信を持つには,確固たる理念,信念,決意が必要だ.
他人や社会情勢に流されていて自信は持てるはずがない.

なぜ,自分はこの時間に起きるのか.
なぜ,自分はこの授業を受けたのか.
なぜ,自分はこの友達と一緒にいるのか.

なぜ,陸上競技をしてきたのか.

この問いに答えられるならば,すでに君たちは自信を手にしている.

そして,今一度,自信を得る過程で味わった孤独を思い出して欲しい.

「自分自身がやらねば成らぬ」と決断を下すとき.
そこには必ず孤独があったはずだ.

たとえ,仲間と共に決めたとしても,諸君の頭のなかでは「俺はこうする」という情熱がフツフツとわき上がっていたはずだ.

孤独を恐れるな.
この仲間を愛すると共に,孤独であることも恐れずにいてほしい.
そして,孤独を乗り越えて自信を身につけてくれ.
大学でもがいた4年間は,自信を身につける4年間だったと信じてほしい.



では,2つめは何だろうか.

それは,金子主将が教えてくれたものだ.

歴代の主将をみても,金子主将ほど競技者としてチームに貢献できなかった主将はいないと思う.

その一方で,彼ほどブロックの垣根を越えて,多くの仲間,後輩達と関わりを持っている主将を私は知らない.


3年次の日本インカレで主将に任命された1週間後.疲労骨折が判明.長いリハビリ期間を余儀なくされる.半年後,1回も跳躍練習が出来ないまま無理をして関東インカレに出場.治っていない足で跳び,再度骨折.
主将としての最後の日本インカレも欠場した.

主将として試合に出場できたのはたった1回だった.

けれども,彼は落ち込む姿を人に見せないし,涙も流さない.
それは主将としての誇りであり,主将という存在はチームのよりどころであることを知っていたからだ.

チームで臨む関東インカレ.彼自身は自分の身体がどうであったか良く知っていた.得点をとるのは副主将の井上に託し,自分自身は影となり,チームの絆を強くすることに努めた.
そして,武大は1部を勝ち得た.

金子主将が教えてくれたもの.

それは「絆」だ.

絆は,愛などと同じく,決して目で見えるものではない.

しかし,必ず存在しているものであり,誰しもが持っているものでもある.

チームの絆を強くすることがどれだけ重要なのか.
それは関東インカレでの,わずか2点差による1部残留が示していると思う.


そして,くしくも卒業を迎えたこの日,今度は我々チームの絆だけでなく,日本という国の,国民の絆が試されている.

未曾有の大災害を救うのは何か.
誤解を恐れずに言わせてもらえば,それは,「リーダーシップ」と「絆」であると断言する.


今日,ここに全員はそろっていない.
けれども,4年間で作り上げた「絆」は決して切れることはない.
どんな災害がこようとも,どんな苦しい思いをしようとだ.


仲間と会えない今だからこそ,君たちが持つ「絆」の強さを再確認してほしい.

それこそが大学4年間で得た最大の宝だ.


最後に君たちにお願いがある.

未曾有の大災害.まだ復興もまま成っておらず,日本の経済は何処へ向かうかさえ解らない.


その先頭を引っ張るリーダーになってほしい.

自信をもって他人を惹き付け,行動をもってチームを引っ張るリーダーに成長してほしい.

そして,リーダーとして築きあげた絆をもって,日本を支えてほしい.

これからの日本を支えるのは,君たちのような体育人だと私は信じている.



君たちと共に成長することができたこの4年間.6年間を誇りに思う.

ありがとう.
そして,卒業おめでとう.