コーチにとって一番重要なこと

我々コーチングスタッフが見えてみるものと,新入生が見えているものは違う.


急に何を言いだすねん! とツッコミたくなるが,少々つきあって欲しい.

昨日,いつも通りグラウンドで練習を見ていた.
横には新入生のトレーナー志望の学生.

監督としてコミュニケーションをとろうと話を進めてみたが,これがなかなか面白い.

ある選手が走っているのを見て,MNBは「あの下腿を振り出す動きをどうやって前に進める要素に変換させるか」と考えていた,つまり,「振りだしは良くない」という,どちらかというとマイナスイメージを持ってみていたのだが,その新入生は「やっぱり大学って凄い.走ってるのも迫力がある.あのストライドの大きさなんか,速い選手そのものって感じ」と言うのである.

つまり,MNBと新入生とでは,見ている対象は同一にもかかわらず,その評価は全く異なるベクトルを持っていたのである.



もちろん,こんなことは良くある話. 経験を積んでらっしゃるコーチからすれば,経験によって意見がことなるなど周知の事実.
けれども,競技者として成熟していない,十分な知識や経験を持たない学生を指導するには,こういった点が非常に重要になる.

筑波大学を退官された恩師の一人である村木先生のお考え,そして為末氏が自身のサイトにて「コーチング論」というタイトルで述べていた内容にも繋がるかもしれないが,指導者に必要なのはその競技者に気づかせてあげること,もう少し言うなればコーチが知識や経験によって「おそらく間違いではないベクトル」を選手に示してあげることではないだろうか.
となると,コーチに必要なのは「知識」と「経験」なのである.

「知識」を得る速度を高めることは比較的容易ではあるが,「経験」という時間軸を,自分自身の力ではやめることは非常に困難である.
順天堂大学の監督が「経験値の高い先輩コーチに打ち勝つのは不可能」とおっしゃっていた.
まあ,コーチに勝つ,負けるが存在するか否かはおいといたとしても,その言葉には上記のような意味が多分に含まれているのだろう.


新入生とMNBでは経験も知識も大きく異なる. 同じ競技者をみているのに,ベクトルが大きくことなるのは当然なのだ.
昨日は久しぶりにその事実を目の当たりにしたため,少々新鮮な気持ちになった.


さらにコーチングに関する話は続く.

こうした学生競技者の指導において最も重要なことは「気づかせること」である.
あくまで主体は競技者.
コーチが押しつけるのは,あまり好ましいことではない.

と,コーチが集まる場ではよく言われる.
しかし,それも本当だろうか?


MNBは,ある程度までは無理矢理にでもレールに載せることも重要ではないかと考えている.
基礎,基本. もちろん,それはコーチの経験や知識によって,「極めて間違いがない」ものである必要がある.
最初から間違った動きや身体感覚を身につけさせてしまうと,後で大変な思いをするのは競技者だからだ.
これは言うまでもない.
しかし,放っておくことで,競技者自身があまり好ましくない癖を身につけてしまうのも怖い.

だからこそ,あるレベルまではコーチが引き上げる.そして,そのレールで加速し,自身で旅立っていくのである.
もちろん,その旅立ちに必要な追い風を起こしてあげるのはコーチの役目.
時には諸葛孔明のように南西の風を吹かせる能力が必要なのだ.
ゴメン.正確には「南西の風が吹くことを知っている」ことが重要.
やっぱり経験か.


コーチが現場に来なくなったら経験が積めない.
選手と接しなくなったら経験が積めない.
競技のことを考えなくなったら経験が積めない.

経験を積めないコーチは前に進めないのだ.

だから,我々若手は毎日,一秒でも長くグラウンドにいる必要があるのだ.

コーチにとって一番重要なのは,一秒でも長くグラウンドにいることである.