トレーナーチーム勉強会 眞鍋の講演内容 「仕事」

勉強会の反響が結構あったので,そこで話した内容を,分けて紹介したいと思います.

最初に話したのは「仕事」というテーマ

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物体Aが物体Bを動かした時,AはBに対して正の仕事をしたということになる.
それが同じ時間でより大きく動いたなら,それは大きな仕事をしたということになる.
ここで注意してほしいのは,例えばA君が重い荷物Bを抱えて立っていたとする.
荷物Bは動いていないから,A君は仕事をしていない.
しかし,荷物Bは重いから,A君は体力をどんどん消耗する.これは最終的に熱エネルギーに変換され,A君は汗をかくことになる.つまり,A君は努力して汗をかいたにもかかわらず,仕事はしていないということになるのだ.

たとえば,先生が大学に来て,机に座って,原稿を書く.それはそれで仕事をしていることになるかもしれないが,社会一般的にはそれが「完成」しないと仕事をしたという評価は得られない.
選手達はこのことを十分理解している.どんなに努力しても,記録が伸びなければ,勝てなければ,それは仕事をしたということにならないということを身体を通して理解しているのだ.

では,逆にA君が荷物Bの重さに耐えきれず,荷物Bをおろしてしまったらどうなるだろう.
実は,物理学の仕事という単位には,プラスとマイナスがある.重力に逆らって荷物Bを持ち上げることができれば,それはA君が荷物Bに対して仕事をしたということになるが,逆に荷物Bがもつ重力にA君が負けてしまうと,これは荷物BがA君に対して仕事をした,
つまりA君はマイナスの仕事を荷物Bにしたということになる.
ここでおろしかけた荷物Bを再びもとの位置へと戻すことができたら? そうなると,A君は荷物Bに対してマイナスの仕事をした後,プラスの仕事をしたということになるので,結局は仕事をしていないということになる.

トレーナーがリハを担当して,その選手が元の状態に戻った.これは仕事をしたといえるのだろうか?
確かに,怪我をしたのは選手であり,トレーナーのせいではない.
しかし,その怪我を元に戻すだけでは,それは選手だけでもできること.
トレーナーがつくということは,復帰した時に元の状態以上の能力を持たせてあげること.これこそが「仕事をした」ということである.

そして,ここで考えてほしい.もとの状態以上に戻る.
これを正しく評価するには,元の競技レベルを把握する必要がある.
例えば,君が担当している選手,ハンマー投げ2年生で58mの記録を持っている選手だとする.ハンマー投げで58mってどんな競技レベル?しかも2年生でその記録ってどれくらいスゴイの? どうだろう.理解しているだろうか?
理解しているということは,58mを投げるにはどれだけの体力,技術が必要なのかを知るということ.
そして,それがどのようなトレーニングによって培われたのかを知るということ.それを知らずに最高のリハを担当することはできない.だから,経験が必要なのだ.
もし,知らなくてもうまくいったというのであれば,それは「狙ってやった」ことではなく,「たまたま」うまくいったというだけのことである.
もちろん,その積み重ねこそが経験であり,だれもがはじめからうまくいくわけではない.
しかし,理解しようとすることでリスクは減らすことができる.失敗を防ぐことができる.そういう気持ちを持つことが,トレーナーとして成長することなのだ.

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続きは,また後日