【重要】専門的体力トレーニングとは?

MNB2016-07-21

ただいま,コーチングに関する本を分担執筆中で,そのなかで体力トレーニングという項目を担当している.

その過程で「トレーニング」について,その分類を整理しているのだが,自身のトレーニングに対する考えを整理する,なかなか良い機会となっている.



レーニングとは「何かしらの方法によって心技体を向上させ,競技力向上へ結びつける行為」と広く捉えた場合,そのなかで,私生活に関するものを排除し,意図的かつ計画的に実施される「何か」を向上させる,鍛える過程を狭義のトレーニングと定義し,話を進める.


そして,「そのトレーニングの主目的は何か」という観点から,現時点では図のような分類にまとめてみた

とはいっても,たった3種類の分類であるが,,,,シンプルでありながら,実に奥が深いと感じている.




解説する.

図の左側にある「専門的競技トレーニング」とは,いわゆる「スキルトレーニング」に相当するものであり,専門とする競技動作にて実施されるトレーニングである.競技パフォーマンスを決定づける「グレーディング,タイミング,スペーシング」の3要素を,より高いパフォーマンスが発揮できるように調節することが目的である.

ここで注意すべきは,この分類はあくまで「そのトレーニングの主目的」で分類しているという点.たとえば,体操競技において技の精度を向上させるためのスキルトレーニングを実施すると,副次的に筋肥大や筋力向上という効果も得られることが多い.だから体力トレーニングにもなっているのだという考えは排除する.目的と得られる効果をごちゃ混ぜにはしない.この分類は「トレーニングの効果」を元に分類したわけではない.あくまで「何を目的としたか」である.



そして,重要なのは「専門的体力トレーニング」という部分は,「あくまで体力トレーニングのなかに存在する」という点であり,「専門的競技トレーニング(スキルトレーニング)と重なっていない」という点.専門的体力トレーニングとは,あくまで体力的要素を高めることを特化した体力トレーニングの一部であり,そのなかで競技特性を考慮したものである.




例えば,砲丸投げ競技者が体幹回旋で発揮されるパワーを向上させるために,バーベルやダンベルを振り回すようなトレーニングをおこなう.このトレーニングは「専門的体力トレーニング」だろうか.


実は,このトレーニングは「今ある体力で効果的にバーベルを振りまわすスキルの向上」と「バーベルによって身体にかかる負荷を利用して体幹回旋筋群を強化する」という二つの目的が組み込まれている.つまり,「専門的体力トレーニング」でもあり「専門的競技トレーニング(スキルトレーニング)」でもあるように思われる.多関節運動で実施される複雑な動作に負荷をかける場合がこれにあたる.



こうしたトレーニングは「様々な効果が期待できるオールインワン型のトレーニング」という捉え方ができる一方で,「目的が曖昧であり効率的&効果的ではないトレーニング」である可能性が高い.

そしてやっかいなのは「そのトレーニング効果は検証が困難」であるということ.誤解をおそれずにいわせてもらえれば「効果がないトレーニング」である可能性も多分に含まれているということである.




たとえば,陸上競技ハンマー投げは7.26kgのハンマーを投げ,その飛距離を競うという競技である.

そしてそのトレーニング現場では,よく「10kgのハンマーを投げる」という練習が行われる.この10kgのハンマーを投げるという練習は,何を目的に実施されるのか.スキル向上なのか体力強化なのか.

およそ初心者であれば,スキルも体力も向上し,同時に7.26kgのハンマーも遠くに飛ばせるようになるだろう.しかし,熟練者はどうか.たとえ10kgのハンマーが遠くに飛ばせるようになったとしても,それはあくまで「10kgのハンマーを遠くに飛ばせる能力」が向上しただけである.言い換えれば7.26kgのハンマー投げパフォーマンスに10kgで発揮するパフォーマンスが近づいただけではないだろうか?



こうしたトレーニングは数多い.
決して,その効果や実施を否定しているわけではないが,我々はある特定のトレーニングになんでもかんでも期待しすぎではないだろうか?



と,分類をしていて考えるようになった.



よく,「スクワットの重さは上がったんですけど,足が速くならないんです.」という言葉を聞くが,その考えそのものが間違っているのだ.スクワットはあくまで脚の伸展筋力を高めるために実施するものであって,その効果が疾走速度向上に結びつくかどうかは別次元の話なのである.


砲丸投げ選手が「ベンチプレスの重さが上がったけど,砲丸が飛ばない」と嘆くのも一緒.そりゃ飛ぶ人も居るだろうし,飛ばない人も居るだろう.目的が異なるのだから同列に比較してはいけない.



ボディビルダーの筋肉は見せかけだ」というのも同様だ.
ボディビルダーは,筋をビルドするためにトレーニングしているわけであり,そのなかには砲丸を遠くに飛ばせるようになった人も居るだろうし,運動能力は全く高くない人もいるだろう.ビルダーのトレーニングと運動能力は関係ない.ビルダーからすれば良い迷惑だ.




ともすれば我々は「なんとなく競技動作に近いから」「なんとなく感覚的に面白いと感じたから」という極めて曖昧な理由で,スキルトレーニングと体力トレーニングをクロスオーバーさせてしまうことがあるようだ.
本来,スキルはスキルとして,体力は体力として個別に強化することが「効果的」なトレーニングであるはずなのに.


参考文献
日本コーチング学会編(2017)コーチング学への招待.大修館書店:東京.pp.164-178.